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第17話 その第二王子、本当に軟弱じゃないですか?

last update Veröffentlichungsdatum: 10.07.2026 16:15:39

「僕はウェルシェが好きだ!」

エーリックの魂の叫びが庭園に響き渡った。

「控え目に言っても大好きだ!」

「そんなはっきり告白されると照れてしまいますわ」

「いったい何をやっているんですか」

エーリックの熱烈アピールに、ウェルシェが赤らめた頬に両手を添えて恥ずかしがり、そんな二人をカミラが呆れた目で見ている。

ここはグロラッハ邸にある、二人がいつも語らう小さな白い四阿。放課後、エーリックは王城へ戻らず、そのままウェルシェと共に侯爵邸を訪れていた。

「でも、ウェルシェは僕を好きじゃないんだ!」

「何でそうなりますの!?」

せわしない方達ですねぇ」

嫌われたと絶望のエーリック、嫌ったと思われて驚愕のウェルシェ、何の茶番かと呆れ顔のカミラ。

「私がお慕いしておりますのはエーリック様だけですわ」

ウェルシェの言葉に嘘はない。もっとも、「エーリック様」の後に(の婚約で得られる特権)と副音声がカミラには聞こえたが。

「でも、みんなウェルシェはケヴィン先輩が好きだって言うし……ウェルシェは僕との婚約が本当は嫌だったのかなって」

「誓って私がケヴィン様をお慕いしている事実はございません!」

エーリックとケヴィンを比べるならば、王家からの利益を選ぶが腹黒令嬢。

利のない結婚はノーサンキューだ。

「でも、ケヴィン先輩は令嬢達に人気があるし……」

冗談ではない!

ケヴィン勘違いヤローに色目を使う頭の緩い令嬢と一緒にされるなど、ウェルシェにとって侮辱以外の何ものでもない。

「僕、自信なくなってきたよ」

「私を信じてくださいませんの?」

ウェルシェは目をうるうる潤ませて訴えた。

「だけど、ウェルシェは僕にもったいないってみんな思ってるよね」

「他の誰がどう思おうと関係ありません。私はエーリック様が良いのです」

カミラには聞こえる――エーリック様の後に(との婚約に付随する特典)との副音声が。

「まあ、落ち着いてお茶でも召し上がってください」

だが、カミラは野暮な指摘はしない。小さな白い丸テーブルを挟んで座るお客様エーリック主人ウェルシェに慣れた手付きでお茶を淹れていく。

「ああ、ありがとう……変わった香りのお茶だね」

「これはウォルリント産ですの」

「薔薇の香りかな?」

「気に入っていただけまして?」

「うん、美味しいよ……それに、とてもホッとする」

鎮静効果のある薔薇の成分を含む茶を飲み、エーリックは幾分か落ち着きを取り戻した。

「ウォルリントとは初めて聞いたけど?」

お茶は貴族の嗜み。エーリックもそれなりに嗜んでいたが、カミラが用意した物はかなりマイナーであった。

「こちらは市場に出回っておりませんの。イーリヤ様の商会でのみ扱っている品ですのよ」

「イーリヤ嬢の?」

「私はイーリヤ様とは面識はございませんが、カミラがあちらの侍女と懇意にしていて融通してもらっているのですわ」

カミラはニルゲ公爵家のみならず様々な貴族家の家人達と繋がりを持っている。ウェルシェはカミラが構築した侍女さんネットワーク情報源を非常に重宝していた。

「お陰様で珍しい商品をいち早く教えていただいたりしております」

エーリックのカップが空になると、カミラは二杯目を注ぎジャムの入った瓶を添えた。

「新しく淹れ直しても良いのですが、濃くなった二杯目に薔薇ジャムを少しばかり加えると違った味わいを楽しめます」

エーリックは言われた通り、小匙一杯のジャムを加えた。

「本当に素晴らしい茶葉だね。イーリヤ嬢が経営している商会は今や我が王国マルトニアで屈指になっているんだから彼女の手腕には驚かされるよ……なのに兄上は……」

エーリックは感嘆すると同時にオーウェンを思い浮かべて嘆きが漏れてしまう。

「彼女は容姿、能力、気品、性格……どれをとっても非の打ち所がない。それなのに他の令嬢を侍らせるなんて」

アイリスの戯言が原因でウェルシェとの婚約に危機を迎えているわけだから、エーリックが愚痴りたくなるのも無理はない。

「優秀過ぎるイーリヤ様に劣等感を抱いているのかもしれませんわ」

「まあ、それに関しては僕にも気持ちは分かるけど」

エーリックが自嘲気味に笑うのでウェルシェは小首を傾げた。

「エーリック様は私に劣等意識がおありなのですの?」

「だって、ウェルシェは優秀だし、学園の人気者じゃないか……それに比べて僕はウェルシェと並び立てるほど優れていないし」

「エーリック様……」

悔しそうに顔を歪ませ、エーリックがテーブルの上で拳を強く握り締めた。

「私は存じております」

エーリックの固く握った拳の上に、ウェルシェはそっと手を重ねた。

「エーリック様はいつも学園で頑張っておられます。ご自分を鍛える努力をなさっておられます」

「だけど、それでも僕は学業も魔術もウェルシェより劣っているんだよ?」

「それが何だと言うのです」

ウェルシェは思う。

自分より優れている者に劣等感を抱くのは構わない。だけどオーウェンのように優越感に浸りたいが為に他の女性へ逃避するのは間違っている。

「どうして私と比較なさいますの? エーリック様は入学してから徐々に成績を上げているではないですか」

それに比べてエーリックは一歩一歩先へ進もうとしているのだ。

「エーリック様は確実に成長なさっておられます。昨日より今日、今日より明日、努力している限り未来のエーリック様はもっと成長していきますわ」

「ウェルシェは僕なんかで良いの?」

エーリックの縋るような目にウェルシェはにこりと笑い返した。

「『なんか』ではありません。努力を重ね続ける事はとても難しいですわ。ですから、直向きに歩み続けるエーリック様を私は尊敬しておりますわ」

これに偽りはない。確かに能力が優れているに越した事はない。だが劣っていても愚直に進もうとする者をウェルシェは嫌わない。現在の己の能力に胡座をかく者よりずっと好ましいと思う。

「そんなエーリック様をどうして嫌いになりましょう」

「ウェルシェ」

「私は本当にエーリック様だけですわよ?」

オーウェンを含め、側近達を篭絡したアイリスの手口をカミラの情報源から既に掴んでいた。

婚約者との関係、剣、魔術、学問、家庭環境――理由はそれぞれ違う。だが、心が折れた隙につけ込み、耳触りの良い言葉で堕落させているらしい。

ケヴィンも優秀な兄と比較されて腐っていたところ、アイリスから「あなたにはあなたの優れた点がある」みたいなセリフで堕とされたそうな。

それを聞いてウェルシェが呆れたのは言うまでもない。

「ケヴィン様みたいに女生徒達と遊蕩三昧されるような方と一緒になどなりたくありませんわ」

「僕だってケヴィン先輩なんかにウェルシェを渡したくない!」

ウェルシェの焚き付けでエーリックはやっと意思を固めた。

「だけど、介入してきた兄上はどうしよう?」

と思ったらすぐに弱気になる彼の頼りなさにウェルシェは内心でため息を吐いた。

「陛下に直談判なさいませ」

「兄上達に『また権力を使った』って言われてしまうよ。僕は自分の力で君を守りたいんだ」

なに生っ白いこと言ってんだ!

だいたい、オーウェンが自分達の婚約に口を出すのも第一王子の地位を乱用したものではないか。それを棚上げするオーウェンにも呆れるが、真っ直ぐ過ぎるエーリックにもウェルシェはちょっと呆れた。

「エーリック様が無闇に王族の地位を乱用しないのは美徳ですが今回ばかりは事情が違いますわ」

使えるものは何でも使うのが腹黒令嬢流。

まあ、馬鹿正直にそんな事は言わないが。

「オーウェン殿下の横暴を阻止できるのは陛下だけですわ」

王家が取り決めた婚約をオーウェンの意見だけで覆される可能性は低いだろう。

「何も言わねばオーウェン殿下の意見が通ってしまうかもしれませんわ。きちんとご自分の意思を表明する事の何がいけませんの?」

しかし、ここで黙っているのは得策ではない。

「そうだね、確かにその通りだ。さっそく戻って父上に言上するよ!」

エーリックは愛する婚約者の説得に重い腰を上げたのだった。

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